50を過ぎて、料理に興味を持った。スマフォ片手にレシピとにらめっこ。口出し無用 と言いたかったが、妻のアドバイスは的確で必須授業となった。週末だけのトライで はあったが、私の腕もそれなりに上達(したと思う)。スーパーに共に出かけるのも 楽しみのひとつとなり、野菜や肉の値段にも詳しくなった。それでも妻に言わせると、 「まだまだ甘いな。いいものを1円でも安く、ここは戦場なのよ」とおっしゃる。教 官の信頼を得るには、まだまだ時間が必要らしい。
料理を始めたときに気づいていたことだが、わが家のキッチンは使い勝手が今ひとつ。 私より10センチも背の低い妻には、手が届きにくい棚も多く、なにより下ごしらえをする スペースが狭い。これでは二人仲良くキッチンに立ち、あ・うんの呼吸で腕を振るう日 なんて永遠に訪れないではないか。キッチンに立つ機会が増えるほど、その不満は私の 中で膨らんでいった。
妻からのブーイングサインは、それ以前から何度も出されていた。長年スルーを決め込 んできた私だが、定年を機に我が家のリフォーム問題に手をつけることにした。キッ チンがきっかけではあったが、考えれば考えるほど終の住処としてのリフォームを手 がけるべきだと気づく。
未来の二人、この先の妻を想像してみると、やるべきリフォームの形が見えてきた。火 を使わないオール電化は、やはり安心感がある。バリアフリーの箇所を増やしたり、断熱効果の高いガラスに変えることも外せないとわかる。今を快適にするだけじゃなく、 未来の暮らしにこれから備えるためのリフォームを心がけた。
定年を前にようやく終の住処は完成を迎える。妻とも何度も話し合い、あるべきカタ チを実現させた。その過程で気づいたことがある。こんなに妻のことを考えたのはいつ以来だろう。彼女のためのリフォームなんて言うと、あなたのためでもあるじゃな いと言い返されるだろうな。けれど、私は言いたい。リフォームは、君への2度目のプロポーズだよと。
※モデル2名の方は、出演時に在籍の事務所には、現在は所属しておりません。